福島第一原発は津波の前に壊れた 木村俊雄を読む5

  “過去の話”ではない の章

 この章は最後の章であり、木村氏が結論を述べていて短いので、全文をコピーした。

『 原発にはそもそも無理があるというのが、長年、現場経験を積んできた私の実感で、私は「反原発」です。しかし敢えて「原発維持」の立場に立つとしましょう。その場合でも、事故を教訓に十分な安全基準づくりの根拠となるべき事故原因の究明すら、いまだなされていないのです。
 東電は「津波によってメルトダウンが起きた」という主張を繰り返しています。そして、その「津波」は、「想定外の規模」で原子力損害賠償法の免責条件にあたるとしています。しかし「津波が想定外の規模だったかどうか」以前に、「津波」ではなく「地震動」で燃料破損していた可能性が極めて高いのです。
 しかも、私が分析したように、「自然循環」停止の原因が、ジェットポンプ計測配管のような「極小配管の破損」にあったとすれば、耐震対策は想像を絶するものとなります。
細かい配管のすべてを解析して耐震対策を施す必要があり、膨大なコストがかかるからです。おそらく費用面から見て、現実的には、原発はいっさい稼働できなくなるでしょう。
 原発事故からすでに8年が経ちますが、この問題は、決して“過去の話”ではありません。
不十分な安全基準で、多くの原発が、今も稼働し続けているからです。』

 以上で木村俊雄氏の論説は終わる。

 折しも、今日、東京地裁は、原発訴訟で、東電会長ら旧経営陣3人に無罪判決を出した。裁判官は、こういった本当の現場の人の声に学び、耳を傾けることなく、別の論理で判決を下しているのだろう。

 「そんな、あれだけの被害を国民に与えていて無罪はないだろう」と一般国民はだれでも思うだろう。裁判所はおかしいんじゃないか、と腹立たしい方も多いだろう。
 そういう方は、この本を読んでみたら裁判所の真実の姿が見えてくるのだろう。
 私も読んでみようと思う。

「裁判所の正体 法服を着た役人たち ブックレビュー」
https://bookmeter.com/books/11777394

福島第一原発は津波の前に壊れた 木村俊雄を読む4

 墓穴を掘った東電 の章

 木村氏は、東電相手に損害賠償を求めて訴訟を起こしている福島県田村市の訴訟に証人として今年3月と5月に出廷したという。
 これは、どこかから仕事で頼まれたというような物でなく、一銭にもならない事なのだが、東電社員では出来ないし、自分の長い経験もこのためにあった、自分にしかできない宿命だ、という使命感で関連するデータや資料を徹底的に読み込んで公判に臨んだという。
 
 東電側は、木村氏の考えに対して、『炉心流量の計測には、ローカットフィルタリングという回路があり、そういった処理が数値上なされているだけで、実際には流量は止まっていない。自然循環は残っている。だから地震によってドライアウトが起こったわけでない』という主張を繰り返した。
 
 ところが5月の公判で、東電側の出してきた「反対尋問用の資料」として原子炉のメーカーの設計書を出してきたのだが、それを読むと、ローカットフィルタリングによる処理の無いデータであることが分かったのだという。
 『東電は、自分の主張を否定するような証拠を自ら提出してきた訳です』

 相手の弁護士はそれを指摘すると困惑して汗をかいていたという。炉心に詳しくない人間が資料作りを担当したのだと分かるという。

 また、東電の企業体質も無視できないという。「過渡現象記録装置」のデータを隠していたように、木村氏の在籍中も、事故の隠ぺいやデータ改ざんを何度も、「安全性」より「経済合理性」を優先させて行っていたという。
 木村氏も上から言われるままにそれに関わっていた訳だが、きっと疑問を感じていたのだろう。

 1991年10月、配管が腐食し、冷却用の海水があふれ出し、建屋内に侵入してしまい、非常用デーゼル発電機が動かなくなる事があり、一号機は68日間にわたり発電停止した事故があったという。
 木村氏は中央制御室に一緒にいた東大の原子力工学科を出たエリートで人間的にもいい人である安全審査の担当者の上司に、このくらいでこうなるなら津波が来たらどうなるのか、津波による事故の事を考えないといけないのでは、と聞くと「君の言う通りだ。鋭いね。しかし、安全審査の中で津波を想定することはタブーなんだ」と言われ、木村氏は戦慄を覚えると同時に大きな脱力感に襲われたという。
 原発設計の根幹にある問題に愕然とし「では、デザインベースから駄目じゃないですか」
 と言った所で会話は終わったという。
 その後もなおざりの報告書が作られて適当な処理で通り過ぎていったという。

 木村氏は、東電の社員であった時から、こういった原発の状況を問題だなと思い続けてきたのだろう。折角、自分の実力でつかんだ専門職の地位をすてて18年で退社したということは、やはりそういった企業風土や原発の現実の姿がいやだったのではないか?(そういう事は書いてないが)
 
 今日、一つの原発訴訟の判決が出るようだ。(木村氏の関わっているものかどうかは?)
 原発が地震によって壊れたという所が争点になっているのか?
 NHKなどの報道を見ていると、津波で原発が壊れ、それを放置していた東電の責任を追及するようだが、もちろん津波の影響も大きいのだろうが、原発はまず、地震で壊れたという点を抜いてしまっては、判決内容はどこか間違ったものになってしまうのではないか。